ふやかす夜 [おっぽこ一番の思い出]
何もかも嫌になった
どうしようもないどうにかしたい
何かすれば弾かれ
何もしなけりゃ貶され
ぜんぶ私が悪いんだろと
不貞腐れながら家に帰る
寝転がったらふと気づくんだ
床のラグのあたたかさ
部屋の明るさ
うさぎの可愛さ
ペットボトルの緑茶の底に
苦い茶葉が残る
星月夜
暗がりに街がふやけて
静けさに耳を澄ませて
今日を終わらせよう
星月夜
黒いうさぎがふやかす
小さな鼻息で私の
くたびれた心を
折れたプライドを
小刻みに動く鼻先が近付いて
口元に触れる柔らかな細いひげ
くすぐったいけど気持ちいいから
キスしそうなほどに近く近く
何もかも嫌になって
家の中まで引き摺って
どうにもならない事より
どうにかしてくれる誰かを
期待したことが惨めだった
後ろから君の頭に鼻をうずめ
しあわせの匂いを嗅ぐ
黒いやわらかな
うさぎのいとおしさ
閉めたままのカーテンを這う
ハエトリグモも生きている
星月夜
暗がりに街がふやけて
眠らない人が集う頃
今日を終わらせよう
星月夜
黒いうさぎがふやかす
重く苦い今日を脱ぎ捨て
私はふにゃふにゃになって
カタチを失くす
君を撫でる手だけ動かせる
この胸につっかえていた暗闇が
滑らかな毛並みに吸い取られて
君の黒がまた美しさを増していく
星月夜の黒うさぎ